2025.7.16

対話理論組織

対話の難しさは、前提を明らかにすることのへの「恐れ」にある

「本当の気持ちを話すのって、難しいよね」

恋愛でも、職場でも、そんな場面に出くわしたことはありませんか?
今日は「対話における前提の開示の難しさ」について、ちょっと視点を変えて、恋愛を例に考えてみたいと思います。


1. 「好き」と言えない恋

たとえば、ある異性に好意を持っているとします。

日々のちょっとしたやり取りに心が弾み、帰り道にはその人のことを思い出す。明らかに「好き」という感情があるのに、なかなかそれを伝えられない。

なぜでしょう?

それは、「伝えた結果、拒絶されたらどうしよう」という恐れがあるからです。
好きな気持ちを伝えることは、自分の内面、つまり「前提」をさらすこと。
その前提が否定されると、自分の大切なものが壊れてしまうような気がする。

だから人は、遠回しな態度を取ったり、冗談でごまかしたり、「好き」という本音を曖昧にしようとします。そして、友人から「お前、あの人のこと好きなんだろ?」なんて図星を突かれたとき、つい「違うよ」と否定してしまう――。

これが「防衛反応」です。

2. 組織でも同じことが起きている。

このような心理は、実は職場の対話でもまったく同じように起きています。

たとえば、あるプロジェクトの進め方に強い違和感を持っているとします。
「この方向性、うまくいかないんじゃないか」
「自分はこういうアプローチのほうが良いと思う」
そんな思いがある。でも、口には出さない

なぜなら、反対意見を言えば「批判的だと思われるかも」「責任を取らされるかも」「浮いてしまうかも」といったリスクや不安があるからです。

その結果、本音を飲み込んで表面的には「そうですね」とうなずいてしまう。
そして、上司や同僚から「本当はどう思ってるの?」と聞かれたとき、「いや、特にないです」と答えてしまう。

これもまた、自分の前提が否定されることへの恐れからくる防衛反応です。

3. 前提をさらすことの勇気と価値

恋愛でも、仕事でも、自分の気持ちや考えを表に出すには大きな勇気が必要です。

でも、その前提をさらけ出したとき――
「実は、あの人のことが好きなんだ」
「本当は、このやり方には納得していないんです」

そんなふうに本音が出てきたとき、まわりの反応がガラッと変わることがあります。

恋愛なら、友人が協力してくれるかもしれない。
仕事なら、上司や同僚が「実は自分もそう思ってた」と言ってくれるかもしれない。

つまり、本当の前提を共有できてはじめて対話が始まるのです。

4. 対話とは、前提の共有から始まる。

組織心理学者のクリス・アージリスは、こうした「本当の気持ちを隠す」「違和感を飲み込む」といった行動を「防衛的ルーティン(Defensive Routines)」と呼びました。
それは、組織内で「失敗したくない」「批判されたくない」という思いから、自分を守るように身につけた、無意識の反応パターンです。
しかしこのルーティンが繰り返されると、組織全体が「本音を語れない文化」になり、学習や変化が止まってしまうと、警鐘を鳴らしています。

でもそれは、個人の弱さではなく、人間として自然な反応なのです。

だからこそ大切なのは、「なぜ言えないのか」を責めることではなく、言えるような関係性と場をつくること。

前提をさらけ出すことは怖い。けれど、それを越えた先にこそ、恋も、組織も、一歩先の関係が待っています。

「お前、好きなんだろ?」

その一言に、「うん、そうだよ」と言えたとき。
対話は本当にはじまるのだと思います。

そして、一度開示できると、その後は意外とすっきりしますよね?
対話には慣れが必要で、前提を明かしたときに茶化さずに親身になって聞いてくれる存在が、仲間なんだと思います。

私たちは仲間である。そのことを信じられる組織は心理的安全性が高く、さまざまな「相違」を対話的に乗り越えていけると思います。

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