組織づくりの現場では、「対話が大切だ」と言われる機会が増えています。特に「1on1が重要」とされることも多いですが、「実際には何をすればいいのか？」「雑談と何が違うのか？」といった戸惑いの声も耳にします。
私が関心を持っているのは、対話をただのコミュニケーション手法としてではなく、「人が学び、変化するプロセス」を「促進する営み」として捉えることです。そして、その背景には複数の理論的支柱があります。
今回は、対話を「学習と発達の促進装置」と位置づけるために、3つの理論を紹介します。
最初に紹介したいのは、コルブ（David Kolb）の経験学習モデルです。このモデルでは、人の学びは「具体的経験」→「内省的観察」→「抽象的概念化」→「能動的実践」という4つのサイクルで進むとされます。
この循環の中で、内省（Reflective Observation）は、自己の経験を“意味のあるもの”として捉え直す重要なプロセスです。ここで対話が大きな力を発揮します。
他者との対話を通じて、自分の経験を語ることは、単に出来事を整理する以上の意味を持ちます。相手の問いや共感、視点の違いを受け取りながら語ることで、「自分では見えなかった意味」が浮かび上がってくるからです。
つまり、対話は経験学習サイクルにおける”内省の触媒”なのです。
私たちの意識は、一枚のフラットな層ではなく、いくつかの階層構造を持っています。
もっとも表面にあるのが「顕在意識」で、これは今この瞬間、自分が自覚的に捉え、言葉にできる領域です。
一方で、普段自覚されていない「無意識」も存在しており、そこには過去の経験、抑圧された感情、自動的な反応パターンなど、私たちの行動や思考に密かに影響を与えるさまざまな要素が含まれています。
そして、この「顕在意識」と「無意識」の間に位置するのが「前意識」と呼ばれる領域です。
前意識とは、「今この瞬間には意識していないが、注意を向ければ思い出せる」「ある程度の文脈や問いかけによって浮かび上がる」思考や感覚の層です。
日常的に“深く考える”人は、実はこの前意識にアクセスしながら思考を進めています。
つまり、深い思考とは、顕在意識の手前にある前意識の層と行き来しながら行われているのです。
このより深い意識へのアクセスは、自ら意識的に考えることで実現することもできますが、誰かとの対話の中でも同様に起こります。特に、心理的に安心できる関係性の中で、適切な問いを投げかけられると、
「あっ、今こう言葉にしてみて気づいたんですが……」
そんな気付きの瞬間が生まれやすくなります。
このように、対話は前意識へのアクセスを促し、自分でもまだ気づいていなかった思考や感情に光を当てる場となります。
３つ目は、発達心理学者ヴィゴツキーの「発達の最近接領域（ZPD：Zone of Proximal Development）」です。
ZPDとは、「今は一人でできないが、他者の支援があればできる領域」のこと。人には、自力で到達できる領域だけでなく、「関係性の中でちょっと上の力を発揮できる」領域があり。そこを刺激することが人の成長を促す、考え方です。
このZPDが働く場として、対話は非常に効果的な手段になります。問いかけ、気づき、整理、確認といった対話の営みが、人の“今ここ”から、“他者の支援があるからこそ踏み出せるステップ”を引き出してくれます。
ここまで見てきたように、対話とは単なるおしゃべりや意見交換ではありません。
それは、
“学びと発達のプロセス”を支える本質的な営みです。
そして、それがうまく働くためには、話す内容だけでなく、「問いかけ」「傾聴」「信頼関係」「共に構造を見ようとする姿勢」といった向き合う双方の“あり方”も問われます。
組織であっても個人であっても、真の変化や学習は、対話という関係性のなかから生まれます。
もし、あなたが組織の変化を願っているなら、まずは仲間と「一緒に問いを持つ」ことから始めてみてはいかがでしょうか。
その一歩は、相手だけでなく、自分自身の変化の扉をも開いてくれるはずです。
弊社の提供するサービスでは、こうした「学習サイクル」を意識し、1on1を中心とした対話の設計によって、組織の運営や変化を支援しています。
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